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夜明けとなって、明けの明星が心の中に上るまで

ヤコブの妻レアの人生(5)ラケルの死

創世記35:16-20

16 こうして彼らはベテルを立ったが、エフラタに行き着くまでに、なお隔たりのある所でラケルは産気づき、その産は重かった。 

17 その難産に当って、産婆は彼女に言った、「心配することはありません。今度も男の子です」。 

18 彼女は死にのぞみ、魂の去ろうとする時、子の名をベノニと呼んだ。しかし、父はこれをベニヤミンと名づけた。 

19 ラケルは死んでエフラタ、すなわちベツレヘムの道に葬られた。 

20 ヤコブはその墓に柱を立てた。これはラケルの墓の柱であって、今日に至っている。 

 ラバンの下から逃げ、二人の正妻と二人の侍女、十二人の子供を引き連れて故郷の地カナンのに戻ってきたヤコブは、一度はシケムの町に定住を試みるが、次男シメオンと三男レビの暴虐のよって(創世記三十四章)、 移住を余儀なくされた。神の導きにより、二十年以上前に兄エサウから一人逃げ、初めて神の幻を見たべテルに移り住んだ。

 しかしシケムから移動するに前に、ヤコブは家族に一つの命令を下した。

創世記35:2-4

2 ヤコブは、その家族および共にいるすべての者に言った、「あなたがたのうちにある異なる神々を捨て、身を清めて着物を着替えなさい。 

3 われわれは立ってベテルに上り、その所でわたしの苦難の日にわたしにこたえ、かつわたしの行く道で共におられた神に祭壇を造ろう」。 

4 そこで彼らは持っている異なる神々と、耳につけている耳輪をことごとくヤコブに与えたので、ヤコブはこれをシケムのほとりにあるテレビンの木の下に埋めた。 

 家族全員がそれぞれ持っていた異教の偶像や耳輪などをヤコブに渡し、ヤコブはそれをテレビンの木の下に埋めたのである。ここで一つの疑問が浮かび上がる。レアは、父親から盗み出し隠し持っていた偶像テラピムを手離し、ヤコブに渡したのだろうか。些細な問題に思えるかもしれないが、ヤコブはラバンに対して行った誓い「だれの所にでもあなたの神が見つかったら、その者を生かしてはおきません。」、そしてこのエピソードのすぐ後にラケルの死が書かれていることが、問題に複雑さを与えているのである。

創世記31:19;31-35

19 その時ラバンは羊の毛を切るために出ていたので、ラケルは父の所有のテラピムを盗み出した。 

31 ヤコブはラバンに答えた、「たぶんあなたが娘たちをわたしから奪いとるだろうと思ってわたしは恐れたからです。 

32 だれの所にでもあなたの神が見つかったら、その者を生かしてはおきません。何かあなたの物がわたしのところにあるか、われわれの一族の前で、調べてみて、それをお取りください」。ラケルが神を盗んだことをヤコブは知らなかったからである。 

33 そこでラバンはヤコブの天幕にはいり、またレアの天幕にはいり、更にふたりのはしための天幕にはいってみたが、見つからなかったので、レアの天幕を出てラケルの天幕にはいった。 

34 しかし、ラケルはすでにテラピムを取って、らくだのくらの下に入れ、その上にすわっていたので、ラバンは、くまなく天幕の中を捜したが、見つからなかった。 

35 その時ラケルは父に言った、「わたしは女の常のことがあって、あなたの前に立ち上がることができません。わが主よ、どうかお怒りにならぬよう」。彼は捜したがテラピムは見つからなかった。 

 シケムにおいてラケルには二つの選択肢があった。テラピムをヤコブに渡し、父親から盗んだのは自分であることを告白するか、それとも知らないふりをしてテラピムを隠し持ち続けるか。三十五章四節「彼らは持っている異なる神々と、耳につけている耳輪をことごとくヤコブに与えた」からすると、ラケルは一番目の選択肢を取った様に思える。

 そしてヤコブの預言者的な役割を考えると(創世記四十八章と四十九章を読むと明らかである)、ラケルの死を「ヤコブの誓いの言葉の成就」と解釈することもできる。ただ、聖書はそれについて明確には語っていないが。

 とにかく、ベツレヘムの近くでラケルはベニヤミンを産んだ直後に死んでしまった。姉レアにとってこの死が何を意味していたか、想像することは難しくない。唯一の妹を失ったとはいえ、夫の愛情を独り占めしていた「ライバル」がいなくなったのである。

 しかしそれでもレアは、ラケルのようには夫に愛されることはなかった。そして夫にとっては故郷であっても、レアにとっては異国の地において、今度は自分の子供たちによって立て続けに苦しむことになるのである。

 

(6)へ続く