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夜明けとなって、明けの明星が心の中に上るまで

ヤコブの妻レアの人生(6)試練の連続

 ヤコブが家族一同引き連れて生まれ故郷の帰ってからすぐ、ヤコブの家族には立て続けに厳しい試練が襲ってくる。特にレアにとっては、自分の子らに直接関わる大きな事件が容赦なくおきることになる。時系列に沿って書いてみる。

  • 長女デナ:ラバンの地パダン・アラムから帰ってきたヤコブは、シケムの町の前の土地を買い、定住しようとしたが、町の領主の息子シケムは愛娘デナを辱めてしまう。

創世記33:18-20

18 こうしてヤコブはパダンアラムからきて、無事カナンの地のシケムの町に着き、町の前に宿営した。 

19 彼は天幕を張った野の一部をシケムの父ハモルの子らの手から百ケシタで買い取り、 

20 そこに祭壇を建てて、これをエル・エロヘ・イスラエルと名づけた。

34:1,2,7

1 レアがヤコブに産んだ娘デナはその地の女たちに会おうと出かけて行ったが、 

2 その地のつかさ、ヒビびとハモルの子シケムが彼女を見て、引き入れ、これと寝てはずかしめた。 

7 ヤコブの子らは野から帰り、この事を聞いて、悲しみ、かつ非常に怒った。シケムがヤコブの娘と寝て、イスラエルに愚かなことをしたためで、こんなことは、してはならぬ事だからである。 

  • 次男シメオンと三男レビ:デナの事でシケムを恨んだ二人は、シケムの町の住民を騙し、割礼を施させ、彼らが痛みで苦しんでいる時を見計らって、住民を皆殺しにし略奪した。父ヤコブはその残虐行為を咎めたが、二人の息子は逆に父を反論した。 

創世記34:25-31

25 三日目になって彼らが痛みを覚えている時、ヤコブのふたりの子、すなわちデナの兄弟シメオンとレビとは、おのおのつるぎを取って、不意に町を襲い、男子をことごとく殺し、 

26 またつるぎの刃にかけてハモルとその子シケムとを殺し、シケムの家からデナを連れ出した。 

27 そしてヤコブの子らは殺された人々をはぎ、町をかすめた。彼らが妹を汚したからである。 

28 すなわち羊、牛、ろば及び町にあるものと、野にあるもの、 

29 並びにすべての貨財を奪い、その子女と妻たちを皆とりこにし、家の中にある物をことごとくかすめた。 

30 そこでヤコブはシメオンとレビとに言った、「あなたがたはわたしをこの地の住民、カナンびととペリジびとに忌みきらわせ、わたしに迷惑をかけた。わたしは、人数が少ないから、彼らが集まってわたしを攻め撃つならば、わたしも家族も滅ぼされるであろう」。 

31 彼らは言った、「わたしたちの妹を遊女のように彼が扱ってよいのですか」。 

 死に際にヤコブをこの事件を思いだし、二人の息子の残虐な行為を厳しく咎めた。

創世記49:5-7

5 シメオンとレビとは兄弟。彼らのつるぎは暴虐の武器。 

6 わが魂よ、彼らの会議に臨むな。わが栄えよ、彼らのつどいに連なるな。彼らは怒りに任せて人を殺し、ほしいままに雄牛の足の筋を切った。 

7 彼らの怒りは、激しいゆえにのろわれ、彼らの憤りは、はなはだしいゆえにのろわれる。わたしは彼らをヤコブのうちに分け、イスラエルのうちに散らそう。 

  •  長男ルベン:当時の慣習では、長男は非常に重要な役割を持っていた。他の子と比較し、二倍の遺産を受け継ぐ権利があり、何よりも家族全体の執り成しする祭司としての霊的責任を受け継ぐ立場であった。長女であったレアの長子ルベンは、本来その立場にいたはずである。母レアもそれを期待していただろう。しかし、ルベンは父の名を辱める重大な罪を犯し、その権利を失った。父の最愛の妻ラケルが死んだ直後、そのラケルの侍女であり、父の妻でもあったビルハと姦通したのである。

創世記35:22

イスラエルがその地に住んでいた時、ルベンは父のそばめビルハのところへ行って、これと寝た。イスラエルはこれを聞いた。さてヤコブの子らは十二人であった。

 晩年、この淫行に関しても、父ヤコブは厳しく咎めている。

創世記49:3,4

3 ルベンよ、あなたはわが長子、わが勢い、わが力のはじめ、威光のすぐれた者、権力のすぐれた者。 

4 しかし、沸き立つ水のようだから、もはや、すぐれた者ではあり得ない。あなたは父の床に上って汚した。ああ、あなたはわが寝床に上った。 

  長子ルベンの愚行によって、ヤコブの期待と愛情は、死んでしまった最愛の妻の長男ヨセフに全て注がれることになる。しかもヨセフは父の妻ビルハとジルパの子ら、つまり自分の異母兄弟らの悪い噂を父に告げたので、なおさら父の愛情はヨセフに注がれることになる。それを見て、ヨセフの兄弟らは彼に嫉妬し、激しく憎んだ。私はこの嫉妬と憎悪の中に、レアとラケルの間であった長年の確執の影響をみる。ヨセフの兄弟たちは、二人の姉妹を中心とした四人の母親らの嫉妬と競争意識の渦の中で育っていたのである。そして彼らは、父ヤコブの最愛の子ヨセフを奴隷として売り飛ばした。さらに彼らはそのことを父に隠し、ヨセフが獣に襲われ死んでしまったかのように偽りを伝えた。こうして妻レアは、慰められることを拒み、悲しむに沈みこむ夫ヤコブと死ぬまで過ごすことになる。

創世記37:31-35

31 彼らはヨセフの着物を取り、雄やぎを殺して、着物をその血に浸し、 

32 その長そでの着物を父に持ち帰って言った、「わたしたちはこれを見つけましたが、これはあなたの子の着物か、どうか見さだめてください」。 

33 父はこれを見さだめて言った、「わが子の着物だ。悪い獣が彼を食ったのだ。確かにヨセフはかみ裂かれたのだ」。 

34 そこでヤコブは衣服を裂き、荒布を腰にまとって、長い間その子のために嘆いた。 

35 子らと娘らとは皆立って彼を慰めようとしたが、彼は慰められるのを拒んで言った、「いや、わたしは嘆きながら陰府に下って、わが子のもとへ行こう」。こうして父は彼のために泣いた。 

  • 四男ユダ:ヨセフが兄弟たちに売られ、エジプトに奴隷として連れて行かれたエピソードの後、聖書はレアの四男ユダが自分の意志で兄弟たちから離れ、カナン人の娘をめとるエピソードを伝えている。この時すでにカナンの娘と結婚することは、望ましいことではないことが、アブラハムが見せた息子イサクに対して示した配慮などから理解できるが、ユダはそのようなことお構いなしにカナンの娘と結婚した。しかしユダは長子エルと次男オナンを立て続けに失うことになる。レアにとっては、二人の孫であった。

創世記38:1-10

1 そのころユダは兄弟たちを離れて下り、アドラムびとで、名をヒラという者の所へ行った。 

2 ユダはその所で、名をシュアというカナンびとの娘を見て、これをめとり、その所にはいった。 

3 彼女はみごもって男の子を産んだので、ユダは名をエルと名づけた。 

4 彼女は再びみごもって男の子を産み、名をオナンと名づけた。 

5 また重ねて、男の子を産み、名をシラと名づけた。彼女はこの男の子を産んだとき、クジブにおった。 

6 ユダは長子エルのために、名をタマルという妻を迎えた。 

7 しかしユダの長子エルは主の前に悪い者であったので、主は彼を殺された。 

8 そこでユダはオナンに言った、「兄の妻の所にはいって、彼女をめとり、兄に子供を得させなさい」。 

9 しかしオナンはその子が自分のものとならないのを知っていたので、兄の妻の所にはいった時、兄に子を得させないために地に洩らした。 

10 彼のした事は主の前に悪かったので、主は彼をも殺された。 

 このようにレアは、夫ヤコブの愛情を受けられないまま、自分の子供達や孫によって立て続けに苦しみを受けた。一人の親として、子を通して受ける苦しみは、言い表し難いものだったろう。子作りの時期に饒舌であった彼女が、この試練の時期には一言も言葉を残していないことは大変意味深い。

 しかしこのような長期的な試練の中にあって、主なる神の計画は静かにレアの人生に成就していたのである。

 

(7)へ続く