an east window

夜明けとなって、明けの明星が心の中に上るまで

「Θ」の文字が刻みこまれたリベルテンの家族の石碑

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 ボローニャ市立考古学博物館のエントランスに展示してある、紀元前一世紀後半から末の時代の石碑。
 左の初老の男性とベールで頭を覆った女性は、それぞれ「リベルテン」つまり奴隷としての社会地位から解放されローマ市民権を獲得していた人物(使徒行伝6:9参照)の夫婦と思われ、右の女性はこの夫婦の娘であったと言われている。
 人物像の上にはそれぞれ名前が刻まれている。

C-CORNELIUS HERMIA C‐L (カイオのリベルテン)
FULLONIA OFFICIOSA SAL-L(サルヴィオのリベルテン)
CORNELIA PRISCA C-L(カイオのリベルテン)

「カイオ」や「「サルヴィオ」は地名ではなく、元主人の名前だと思われる。

 特に意味深いのは、それぞれ名前とレリーフ像の間に刻まれている「V」と「Θ」の文字で、「V」は【vivus】の頭文字で「生きている」を意味し、「Θ」はギリシャ語【θάνατος / thanato】の頭文字テータで「死」を意味する。つまりこの石碑が造られた時、初老の夫婦は一人娘に先立たれていたことになる。
 親にとって自分の子供を失う以上の苦しみはないだろう。奴隷としての地位から苦労して解放され、石碑を残すほど富と地位を得ることに成功した夫婦が、成長した一人娘を失い、その痛みを石に刻み込んでいる。
 皺までリアルに表現されている男性の顔を見ながら、一度に十人の息子や娘を失い、自身も重い皮膚病と三人の「友人たち」による不条理な叱責に苦しんだヨブの魂の叫びの言葉を連想していた。

ヨブ19:23-27
23 どうか、わたしの言葉が、書きとめられるように。どうか、わたしの言葉が、書物にしるされるように。
24 鉄の筆と鉛とをもって、ながく岩に刻みつけられるように。
25 わたしは知る、わたしをあがなう者は生きておられる、後の日に彼は必ず地の上に立たれる。
26 わたしの皮がこのように滅ぼされたのち、わたしは肉を離れて神を見るであろう。
27 しかもわたしの味方として見るであろう。わたしの見る者はこれ以外のものではない。わたしの心はこれを望んでこがれる。