「いただきます」と聖餐
大來尚順 訳せない日本語 日本人の言葉と心 第9回「いただきます」 | アルファポリス - 電網浮遊都市 -
「いただきます」の意味
食前に口にする「いただきます」の意味を尋ねられると、一般的には食事を作って下さった方々への感謝だと答える人が多いと思います。もちろん、この感謝の気持ちも含まれていますが、実は真意はもっと深いものです。
本来「いただきます」の前には「いのちを」という言葉が隠されているのです。これを英語にすると「I take your life.」(私は「いのち」を奪う)となり、ストレートでわかりやすくなります。つまり、私たち人間は、動物、野菜、細菌やウイルスを含め、他のいのちの犠牲なくしては生きていけないのです。言い換えれば、私たちはさまざまな「いのち」に支えられて「生かされている」のです。
この意味を踏まえると、まず「いただきます」と口にして思うべきことは、「申しわけない」という他の「いのち」への懺悔(ざんげ)なのです。すると自ずと頭が下がります。そして、そこから感謝が生まれてくるのです。ですから、一案として英訳は「I am so sorry for taking your life and am greatly appreciate to be able to have your life.」(あなたのいのちを奪ってしまい、申し訳ありません。有難くいのちを頂戴いたします。)と表現できると思います。
(一部引用)
この記事で展開されている「いただきます」の概念を、最も崇高な形で体現しているのが、「聖餐(せいさん)」であると思う。なぜなら、その犠牲になった「いのち」、そして受ける「いのち」が、動物などのそれではなく、これ以上ありえない代価を伴う、神の独り子の「いのち」だからである。その「いのち」は、創られた命、つまり創造主が望むなら何度でも創れる命ではなく、全ての源泉としての類を見ない、唯一の「いのち」である。
マタイ26:26-28
26 一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、「取って食べよ、これはわたしのからだである」。
27 また杯を取り、感謝して彼らに与えて言われた、「みな、この杯から飲め。
28 これは、罪のゆるしを得させるようにと、多くの人のために流すわたしの契約の血である。
ルカ22:19-20
19 またパンを取り、感謝してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、「これは、あなたがたのために与えるわたしのからだである。わたしを記念するため、このように行いなさい」。
20 食事ののち、杯も同じ様にして言われた、「この杯は、あなたがたのために流すわたしの血で立てられる新しい契約である。
Ⅰコリント10:16-17
16 わたしたちが祝福する祝福の杯、それはキリストの血にあずかることではないか。わたしたちがさくパン、それはキリストのからだにあずかることではないか。
17 パンが一つであるから、わたしたちは多くいても、一つのからだなのである。みんなの者が一つのパンを共にいただくからである。
Ⅰコリント11:23-26
23 わたしは、主から受けたことを、また、あなたがたに伝えたのである。すなわち、主イエスは、渡される夜、パンをとり、
24 感謝してこれをさき、そして言われた、「これはあなたがたのための、わたしのからだである。わたしを記念するため、このように行いなさい」。
25 食事ののち、杯をも同じようにして言われた、「この杯は、わたしの血による新しい契約である。飲むたびに、わたしの記念として、このように行いなさい」。
26 だから、あなたがたは、このパンを食し、この杯を飲むごとに、それによって、主がこられる時に至るまで、主の死を告げ知らせるのである。
信仰者の集まりにおいて、割かれたパンを食し、皆が一つの杯からブドウ酒を飲むことは、それ自体、「主の記念」つまり「主を覚えること」であり、「主の死を告げ知らせる」、つまり御子イエスの犠牲の死のメッセージであり、「十字架の言(ことば)」なのだ。
さらに「聖餐」は、神自身が備えてくださった御子と御子のわざのメッセージだけでなく、「契約」でもある。これは「いただきます」の真意の説明の中には含まれていない概念である。
この杯は、あなたがたのために流すわたしの血で立てられる新しい契約である。
それはつまり、どんな人間でも、またどんな状況に置かれていても「十字架の言」と「御子のいのち」に与ることができるように神によって立てられた契約である。その永遠の契約のゆえ、罪びとは誰でも、そしていつでも、神の恵みを受けることができるのである。
神自身によって一方的に備えられた「十字架の言」と「神の契約」の圧倒的な意味を知り、体験する時、感謝や懺悔、畏敬の念などの人間側の反応は、必然的に生まれるのである。