an east window

夜明けとなって、明けの明星が心の中に上るまで

エチオピヤびとエベデメレク(1)

エレミヤ38:1-28

1 マッタンの子シパテヤ、パシュルの子ゲダリヤ、セレミヤの子ユカル、マルキヤの子パシュルはエレミヤがすべての民に告げていたその言葉を聞いた。

2 彼は言った、「主はこう言われる、この町にとどまる者は、つるぎや、ききんや、疫病で死ぬ。しかし出てカルデヤびとにくだる者は死を免れる。すなわちその命を自分のぶんどり物として生きることができる。

3 主はこう言われる、この町は必ずバビロンの王の軍勢の手に渡される。彼はこれを取る」。

4 すると、つかさたちは王に言った、「この人を殺してください。このような言葉をのべて、この町に残っている兵士の手と、すべての民の手を弱くしているからです。この人は民の安泰を求めないで、その災を求めているのです」。

5 ゼデキヤ王は言った、「見よ、彼はあなたがたの手にある。王はあなたがたに逆らって何事をもなし得ない」。

6 そこで彼らはエレミヤを捕え、監視の庭にある王子マルキヤの穴に投げ入れた。すなわち、綱をもってエレミヤをつり降ろしたが、その穴には水がなく、泥だけであったので、エレミヤは泥の中に沈んだ。

7 王の家の宦官エチオピヤびとエベデメレクは、彼らがエレミヤを穴に投げ入れたことを聞いた。その時、王はベニヤミンの門に座していたので、

8 エベデメレクは王の家から出て行って王に言った、

9 「王なるわが君よ、この人々が預言者エレミヤにしたことはみな良いことではありません。彼を穴に投げ入れました。町に食物がなくなりましたから、彼はそこで餓死するでしょう」。

10 王はエチオピヤびとエベデメレクに命じて言った、「ここから三人のひとを連れて行って、預言者エレミヤを、死なないうちに穴から引き上げなさい」。

11 そこでエベデメレクはその人々を連れて王の家の倉の衣服室に行き、そこから古い布切れや、着ふるした着物を取り、これを穴の中にいるエレミヤのところへ、綱をもってつり降ろした。

12 そしてエチオピヤびとエベデメレクは、「この布切れや着物を、あなたのわきの下にはさんで、綱に当てなさい」とエレミヤに言った。エレミヤはそのようにした。

13 すると彼らは綱をもってエレミヤを穴から引き上げた。そしてエレミヤは監視の庭にとどまった。

14 ゼデキヤ王は人をつかわして預言者エレミヤを主の宮の第三の門に連れてこさせ、王はエレミヤに言った、「あなたに尋ねたいことがある。何事もわたしに隠してはならない」。

15 エレミヤはゼデキヤに言った、「もしわたしがお話するなら、あなたは必ずわたしを殺されるではありませんか。たといわたしが忠告をしても、あなたはお聞きにならないでしょう」。

16 その時ゼデキヤ王は、ひそかにエレミヤに誓って言った、「われわれの魂を造られた主は生きておられる。わたしはあなたを殺さない、またあなたの命を求める者の手に、あなたを渡すこともしない」。

17 そこでエレミヤはゼデキヤに言った、「万軍の神、イスラエルの神、主はこう仰せられる、もしあなたがバビロンの王のつかさたちに降伏するならば、あなたの命は助かり、またこの町は火で焼かれることなく、あなたも、あなたの家の者も生きながらえることができる。

18 しかし、もしあなたが出てバビロンの王のつかさたちに降伏しないならば、この町はカルデヤびとの手に渡される。彼らは火でこれを焼く。あなたはその手をのがれることができない」。

19 ゼデキヤ王はエレミヤに言った、「わたしはカルデヤびとに脱走したユダヤ人を恐れている。カルデヤびとはわたしを彼らの手に渡し、彼らはわたしをはずかしめる」。

20 エレミヤは言った、「彼らはあなたを渡さないでしょう。どうか、わたしがあなたに告げた主の声に聞き従ってください。そうすれば幸を得、また命が助かります。

21 しかし降伏することを拒むならば、主がわたしに示された幻を申しましょう。

22 すなわち、ユダの王の家に残っている女たちは、みなバビロンの王のつかさたちの所へ引いて行かれます。その女たちは言うのです、『あなたの親しい友だちがあなたを欺いた、そしてあなたに勝った。今あなたの足は泥に沈んでいるので、彼らはあなたを捨てて去る』。

23 あなたの妻たちと子供たちは皆カルデヤびとの所へひき出される。あなた自身もその手をのがれることができず、バビロンの王に捕えられる。そしてこの町は火で焼かれるでしょう」。

24 ゼデキヤはエレミヤに言った、「これらの言葉を人に知らせてはならない。そうすればあなたは殺されることはない。

25 わたしがあなたと話をしたことを、つかさたちが聞いて、彼らがあなたの所に来て、『あなたが王に話したこと、王があなたに話したことをわれわれに告げなさい。何事も隠してはならない。われわれはあなたを殺しはしない』と言うならば、

26 あなたは彼らに、『わたしは王に願って、わたしをヨナタンの家に送り返さず、そこで死ぬことのないようにしてくださいと言った』と答えなさい」。

27 さて、つかさたちは皆エレミヤのところへ来て尋ねたが、王が彼に教えたように彼らに答えたので、彼らは彼と話すことをやめた。その会話を聞いた者がなかったからである。

28 エレミヤはエルサレムの取られる日まで監視の庭にとどまっていた。

 王の家の宦官エチオピヤびとエベデメレク(עבד מלך ‛ebed melek 「王のしもべ」という意味 新共同訳:エベド・メレク)が、預言者エレミヤを水のない井戸の底から引き上げたときは、まさにユダ王国の首都エルサレムがバビロニア王のネブカデネザルによって陥落(前587~6年)される直前の時代であった。

 バビロニア帝国の圧倒的軍事力はもうすでに知られており、実際、約10年前にエルサレムは攻略され、多くの人々が捕囚され、メソポタミヤに連行されていたのである。引ききった弓が今まさにエルサレムに向かって放たれようとしていたような危機感に満ちた時代、多くの人々が動揺している中、生死にかかわる選択を迫られていた。それは預言者エレミヤの言葉を通して啓示されていた主なる神のみ旨に従うか、それとも「司たち」つまり王国の指導者たちの言葉に従ってバビロニア王に逆らうか、という峻烈な選択であった。

 神の民の霊的改革を指揮したことで有名なヨシヤ王の三男として生まれたゼデキヤ王も、その極度に緊張した状況でどうすればいいかわからず不安定に揺れ動いていたことが、38章の記述によって伝わってくる。司たちにエレミヤを殺すように強く迫られては「見よ、彼はあなたがたの手にある。王はあなたがたに逆らって何事をもなし得ない」と答え、自分の外国人のしもべエベデメレクの冷静な言葉に態度を変えて、「ここから三人のひとを連れて行って、預言者エレミヤを、死なないうちに穴から引き上げなさい」と命じた。引き上げられたエレミヤに対して恐る恐るどうすればいいか忠告を求めるものの、結局最後には預言者の言葉に従わず、隠れてエルサレムから逃げ出そうとしてバビロニア王に捕まり、両目をえぐられ、鎖に繋がれバビロニアの連行され、異国の地の牢獄の中で生涯を終えることになる。

エレミヤ52:1-11

1 ゼデキヤは王となったとき二十一歳であったが、エルサレムで十一年世を治めた。母の名はハムタルといい、リブナのエレミヤの娘である。

2 ゼデキヤはエホヤキムがすべて行ったように、主の目の前に悪事を行った。

3 たしかに、主の怒りによって、エルサレムとユダとは、そのみ前から捨て去られるようなことになった。そしてゼデキヤはバビロンの王にそむいた。

4 そこで彼の治世の九年十月十日に、バビロンの王ネブカデレザルはその軍勢を率い、エルサレムにきて、これを包囲し、周囲に塁を築いてこれを攻めた。

5 こうしてこの町は攻め囲まれて、ゼデキヤ王の十一年にまで及んだが、

6 その四月九日になって、町の中の食糧は、はなはだしく欠乏し、その地の民は食物を得ることができなくなった。

7 そして町の城壁はついに打ち破られたので、兵士たちはみな逃げ、夜のうちに、王の園の近くの、二つの城壁の間の門から町をのがれ出て、カルデヤびとが、町を攻め囲んでいるうちに、アラバの方へ落ちて行った。

8 しかしカルデヤびとの軍勢は王を追って行って、エリコの平地でゼデキヤに追いついたが、彼の軍勢がみな散って彼のそばを離れたので、

9 カルデヤびとは王を捕え、ハマテの地のリブラにいるバビロンの王のもとに引いていったので、王は彼の罪を定めた。

10 すなわちバビロンの王はゼデキヤの子たちをその目の前で殺させ、ユダのつかさたちをことごとくリブラで殺させ、

11 またゼデキヤの目をつぶさせた。そしてバビロンの王は彼を鎖につないでバビロンへ連れて行き、その死ぬ日まで獄屋に入れて置いた。

 危機的状況の中で恐怖によって揺さぶられるゼデキヤとは対照的に、エベデメレクは、ユダ王国の最後の王に仕える一人の異邦人として、王国の権力者たちの怒りも恐れず、迫害を受け、泥の中で投げ落とされていた神のしもべのために勇気と廉直な心で執り成しをしたのである。

 

(2)へ続く