『ローマびとへの手紙』(32)約十四年の歳月の価値
ローマ4:9-13
9 さて、この幸福は、割礼の者だけが受けるのか。それとも、無割礼の者にも及ぶのか。わたしたちは言う、「アブラハムには、その信仰が義と認められた」のである。
10 それでは、どういう場合にそう認められたのか。割礼を受けてからか、それとも受ける前か。割礼を受けてからではなく、無割礼の時であった。
11 そして、アブラハムは割礼というしるしを受けたが、それは、無割礼のままで信仰によって受けた義の証印であって、彼が、無割礼のままで信じて義とされるに至るすべての人の父となり、
12 かつ、割礼の者の父となるためなのである。割礼の者というのは、割礼を受けた者ばかりではなく、われらの父アブラハムが無割礼の時に持っていた信仰の足跡を踏む人々をもさすのである。
13 なぜなら、世界を相続させるとの約束が、アブラハムとその子孫とに対してなされたのは、律法によるのではなく、信仰の義によるからである。
アブラハムがカナンの地に移り住んで約十年後、主なる神はアブラハムの信仰をみて、それを彼の義と認めた。
創世記15:5-6
5 そして主は彼を外に連れ出して言われた、「天を仰いで、星を数えることができるなら、数えてみなさい」。また彼に言われた、「あなたの子孫はあのようになるでしょう」。
6 アブラムは主を信じた。主はこれを彼の義と認められた。
そしてその夜から約十四年後、アブラハムが九十九歳の時に、契約のしるしとして割礼を命じた。
創世記17:9-14
9 神はまたアブラハムに言われた、「あなたと後の子孫とは共に代々わたしの契約を守らなければならない。あなたがたのうち
10 男子はみな割礼をうけなければならない。これはわたしとあなたがた及び後の子孫との間のわたしの契約であって、あなたがたの守るべきものである。
11 あなたがたは前の皮に割礼を受けなければならない。それがわたしとあなたがたとの間の契約のしるしとなるであろう。
12 あなたがたのうちの男子はみな代々、家に生れた者も、また異邦人から銀で買い取った、あなたの子孫でない者も、生れて八日目に割礼を受けなければならない。
13 あなたの家に生れた者も、あなたが銀で買い取った者も必ず割礼を受けなければならない。こうしてわたしの契約はあなたがたの身にあって永遠の契約となるであろう。
14 割礼を受けない男子、すなわち前の皮を切らない者はわたしの契約を破るゆえ、その人は民のうちから断たれるであろう」。
主なる神が、目には見えない、量ることもできないアブラハムの信仰を見て、それを義として見なした夜にも、神は動物のいけにえによって、アブラハムと契約を結んでいた。
創世記15:18-21
18 その日、主はアブラムと契約を結んで言われた、「わたしはこの地をあなたの子孫に与える。エジプトの川から、かの大川ユフラテまで。
19 すなわちケニびと、ケニジびと、カドモニびと、
20 ヘテびと、ペリジびと、レパイムびと、
21 アモリびと、カナンびと、ギルガシびと、エブスびとの地を与える」。
それにも関わらず、主なる神はその契約のしるしとしての割礼を命じるのに、約十四年の月日が流れるまで待ったのである。十四時間でも、十四日でも、十四か月でもない。十四年である。もし望めば、同じ夜に命じることもできたはずである。アブラハムは信仰によって、神の命令に従っただろう。割礼を与えるには、アブラハムの信仰は未熟だったからであろうか。いや、アブラハムは主の言葉に従って故郷ウルから旅立ち、信仰によってカナンの地を十年近く歩んでいたのである。神はアブラハムの信仰が、義と見做すには十分だと判断したのである。
この「信仰による義認の夜」から「割礼の命令」までの約十四年間の期間は、イエス・キリストに対する信仰によって、無割礼のまま神の義と認められる人々、つまりユダヤ人以外のすべての異邦人(勿論、その中には日本人も含まれている)の信仰の模範となるために、神からアブラハムに与えられていた期間であった。
アブラハムにとっては、約束の子の誕生を待たなければいけなかった長い長い年月。女奴隷に跡取り息子を産ませるという人間的な解決策によって、逆に家族の中で発生した確執と試練に耐えなければいけなかった重い年月。
それでも、割礼に代表される律法の行いではなく、イエス・キリストに対する信仰によってのみ神に義とされるすべての異邦人にとっては、永遠の霊的意味をもつ年月である。