an east window

夜明けとなって、明けの明星が心の中に上るまで

ギリシャ語文字に変換されて新約聖書に挿入されたアラム語のリスト

  新約聖書の中には、当時ユダヤ・パレスチナ地方で日常的に使われていたアラム語の表現を、ギリシャ語文字に変換した表現がいくつもある。現代に適用して判り易く言うと、英語の表現、例えば「Oh my God!」をカタカナで「オー マイ ゴッド」と書いて日本語の文章の中で使うようなものである。

 以下は、ギリシャ語文字に変換されて新約聖書に挿入されたアラム語のリストである。一応明確なものだけ列挙する。

 

ラカ(能なし)(Ρακα)

マタイ5:22(新改訳)

しかし、わたしはあなたがたに言います。兄弟に向かって腹を立てる者は、だれでもさばきを受けなければなりません。兄弟に向かって『能なし。』と言うような者は、最高議会に引き渡されます。また、『ばか者。』と言うような者は燃えるゲヘナに投げ込まれます。

 

マモン(富)(Μαμωνας)

マタイ6:24

だれも、ふたりの主人に兼ね仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛し、あるいは、一方に親しんで他方をうとんじるからである。あなたがたは、神と富とに兼ね仕えることはできない。

ルカ16:9-13

9 またあなたがたに言うが、不正の富を用いてでも、自分のために友だちをつくるがよい。そうすれば、富が無くなった場合、あなたがたを永遠のすまいに迎えてくれるであろう。 

10 小事に忠実な人は、大事にも忠実である。そして、小事に不忠実な人は大事にも不忠実である。 

11 だから、もしあなたがたが不正の富について忠実でなかったら、だれが真の富を任せるだろうか。 

12 また、もしほかの人のものについて忠実でなかったら、だれがあなたがたのものを与えてくれようか。 

13 どの僕でも、ふたりの主人に兼ね仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛し、あるいは、一方に親しんで他方をうとんじるからである。あなたがたは、神と富とに兼ね仕えることはできない」。 

 

タリタ、クミ (Ταλιθα κουμ)

マルコ5:41

そして子供の手を取って、「タリタ、クミ」と言われた。それは、「少女よ、さあ、起きなさい」という意味である。 

 

エパタ (Εφφαθα)

 マルコ7:34

天を仰いでため息をつき、その人に「エパタ」と言われた。これは「開けよ」という意味である。 

 

 アバ (Αββα)

マルコ14:36

「アバ、父よ、あなたには、できないことはありません。どうか、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの思いではなく、みこころのままになさってください」。 

 

 エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ (ελωι ελωι λαμα σαβαχθανει)

マルコ15:34

そして三時に、イエスは大声で、「エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ」と叫ばれた。それは「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。

 

ラボニ (Ραββουνει)

ヨハネ20:16

イエスは彼女に「マリヤよ」と言われた。マリヤはふり返って、イエスにむかってヘブル語で「ラボニ」と言った。それは、先生という意味である。  

 

マラナ・タ (Μαρανα θα)

Ⅰコリント16:22

もし主を愛さない者があれば、のろわれよ。マラナ・タ(われらの主よ、きたりませ)。  

  

 また、人や場所の名称においても、アラム語をギリシャ語文字に変換したものが、新約聖書には数多く挿入されており、これらの名称はアラム語が如何に日常生活に浸透していたかを暗示している。

人物名

  • バルトロマイ(マタイ10:3)
  • バルヨナ・シモン(マタイ16:17)
  • バラバ(マタイ27:16)
  • バルテマイ(マルコ16:24)
  • バルサバ(使徒1:23)
  • バルナバ(使徒4:36)
  • バルイエス(使徒13:6)

あだ名

  • ボアネルゲ(マルコ3:17)「雷の子」という意味
  • ケパ(ヨハネ1:42)ギリシャ語ではPetros(岩、もしくは石)という意味。ギリシャ語の人名形はPetrusだから、口語訳や新改訳よりも新共同訳(「あなたはヨハネの子シモンであるが、ケファ――『岩』という意味――と呼ぶことにする」)の方がより正確ではないだろうか。使徒パウロが彼のことをギリシャ語名「ペトゥルス」ではなく、アラム語名「ケパ」で呼んでいるのは意味深い(Ⅰコリント1:12,32;9:5;15:5 ガラテヤ1:18;2:9,11,14)。本名はシモン。
  • トマス(ヨハネ11:16,20:24,21:2)「デドモ」は、アラム語「トマ」(双子という意味)のギリシャ語訳である。彼の本名は、ユダだと言われている。
  • タビタ(使徒9:36)「ドルカス」は、アラム語「タビタ」(かもしか)の古典ギリシャ語

地名 

  • ゲヘナ(これはヘブライ語gē-hinnom「ヒンノムの谷」をギリシャ語変換したもの。エルサレム南部の谷を指していたが、霊的適用され、「悔い改めない者が永遠の刑罰を受けるところ」という意味で使われている。 マタイ5:22,29,30;10:28;18:9;23:15,33;マルコ9:43,45,47;ルカ12:5;ヤコブ3:6)
  • ゲツセマネ(マタイ26:36 マルコ14:32)
  • ゴルゴタ(マルコ15:22 ヨハネ19:22)アラム語で「頭蓋骨」という意味。 ルカによる福音書は、ギリシャ語で「頭蓋骨」を意味する「Kranion」だけを使っている。
  • ガバタ(ヨハネ19:13)「敷石(ヘブル語ではガバタ)」とあるが、アラム語源である。
  • アケルダマ(使徒1:19)「血の地所」という意味